レターズ

「新しい手紙文の書き方」という本が手元にあります。

発行は昭和41年。はしがきには「人間が日常、社会生活をしていく上で最も大切なものの一つに手紙があります」と書かれています。メールやSNSなどが無い時代ですから当然なのですが、それにしてもずいぶん手紙が上位にランクされていますね。また「難しく考えず、やさしく、分かりやすく、その中に親愛の情がこもっていればよい」とも書かれています。つまり会って話すのと同じように書けば良い、文字で今の気持ちを伝えれば良いということでしょう。

数々の手紙の範例がたくさん掲載されているのもこの本の特徴で、ペン字のお手本も併載されていて何かと役に立つ本なのです。

祝賀、贈答、見舞い、招待、謝礼の手紙の書き方はもちろん、「商売替えの友人に忠告」、「大酒のみの友へ」、「不品行な女事務員へ」などといった昔ならではの面白い範例も掲載されていて読んでいて飽きません。

例えばその一節を引用すると 「レコードを借りる時のあいさつ文」として

「さて、来たる十三日は当村の祭礼につき、われら青年団員相図(あいはか)り、収穫祭をかねて農村慰安の夕べを催すことになりました。素人演芸をやり、またレコードコンサートを開きたいと思っており、ステレオは借りましたが、レコードの適当なものがなくて困っております。貴下は名曲のレコードをたくさんお持ちのことと承りましたが、ご愛蔵の品を誠に恐縮ながら、ポピューラーものをはじめ、流行歌などもありましたら数枚を拝借願えませんでしょうか。小生責任をもって大切に取り扱います。」

といった具合で、文章の古めかしさもさることながら、当時の生活の様子がうかがえてとても興味深いのです。

ひょっとしたら50年後には、今私たちがやっているメールやSNSも古臭くて面白がられるような時代になっているかもしれませんね。

これから社会はますますネットへの依存が高くなると思いますが、手書きの文字で気持ちを伝える「手紙」はいつまでも残ると信じています。

流水